誰もが一度は耳にしたことがあると思いますが、感染経路や病態が複雑で、一般的に正確に認知されている事は多くありません。
正直言うと、私も獣医師になりたての頃はよく理解できていなかった病気です。。。
「なんとなく蚊が悪さをする病気」、「よく分からないけど予防薬を飲んどいたらいいだろう」、「そもそも予防しなきゃいけないの??」
思われている飼い主様も多いと思います。
この記事では、American Heartworm Society が発行するガイドラインと、犬フィラリア症の流行地である沖縄県と岡山県での私の勤務経験をもとに、犬フィラリア症の予防についてご説明いたします。
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監修者プロフィール:小原 健吾
所属学会:日本獣医歯科学会、日本小動物歯科研究会、日本獣医エキゾチック動物学会 / 趣味:サーフィン、SUP
どんな病気?

フィラリアという犬の心臓や肺動脈に寄生する、素麺のような寄生虫が起こす病気です。
感染には以下のようなサイクルがあります。
● フィラリアの感染サイクル
・サイクル1.
フィラリア成虫が寄生している犬の体内では、成虫からミクロフィラリアが産まれ、身体中の血管の中を流れています。
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・サイクル2.
蚊が吸血することで、ミクロフィラリアが蚊の体内に侵入し、ある程度まで成長します。
↓
・サイクル3.
その蚊がまた別の犬を吸血するときに、フィラリア幼虫が犬の体内に侵入します。
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約半年かけて成虫になり、サイクル1.に戻ります。
このように犬と蚊のサイクルを繰り返してどんどん蔓延していく病気です。
稀にですが猫にも感染します。
どんな問題があるの?
寄生する虫の数が少ない時や初期の頃はあまり症状を呈さないことが多く、肺の血管が傷んでくるにつれて咳、元気・食欲低下、発熱などが発生します。
肺高血圧や慢性心不全を呈すると、呼吸困難、体重減少、復水貯留も認められ非常に予後が悪い病態になり、治療は生涯続きます。
● 私の経験から
温暖な地域にも多く、私が沖縄県宮古島市の動物病院で働いていた頃、咳を主訴に来院された犬のほとんどはフィラリア症が原因で、ごくありふれた病気でした。
感染虫体少ないと強い症状もなく完治することもありますが、急性心不全で亡くなった犬や慢性化して腹水がどんどん溜まり定期的に腹水抜去をした犬も担当させていただいたこともあります。
一度フィラリアに寄生されると治療は長期にわたり、肺高血圧症や慢性心不全を呈すると体内のフィラリアがいなくなった後も治療は生涯つづきます。
また、成虫は心臓や肺に流れていく血管に寄生するため、心臓内の血流を制御する弁に絡みつくこともあります。
その場合は急性心不全に陥り、治療には手術が必要でやらなければ亡くなることがほとんど、しかも手術の前後で亡くなる確率は50%という非常に厳しい病態になってしまいます。
本州でも地方の山間部を中心に今だに流行している地域が散在し、私の地元の岡山県でも予防をしていないと感染・発症する犬は少なくありませんでした。
神奈川県や東京都近郊ではほとんど感染犬はいませんが、北関東や千葉県の一部では感染犬は散見されるようです。
このように地域性が強い病気ですが、最近では都市部でも主に保護犬で犬フィラリア症に遭遇することがあります。
予防法

このように犬フィラリア症は非常に恐ろしい寄生虫感染症ですが、どのように予防したらよいのでしょうか?
● 予防法
予防はとても簡単で、毎年5〜12月の期間に、毎月1回フィラリア予防薬を飲むだけです。
(沖縄地方など温暖な地域では1年間毎月の投薬が必要なこともあります)
特に12月に、蚊の時期を過ぎてからの投薬が非常に大切です。
フィラリア予防薬が発売される以前は犬の死因はフィラリア症がかなり多く、平均寿命は4−5歳くらいだったようです。
お薬は、美味しいおやつタイプ、錠剤タイプ、滴下タイプを当院で扱っております。
マダニ・ノミの駆虫薬も一緒になったお薬もあるので、一般的な寄生虫対策が1つでできます。
多い病気ではないですが、1度でもかかると大変なことになるので、愛犬の健康を守るためにしっかりと予防してあげましょう。