歯が物理的に削られたり擦り減ってしまうことを「咬耗」や「摩耗」と言います。
咬耗は物を噛むなど日常的な生活で削れること、摩耗は乱暴なブラッシングやスケーリングなどで削れることです。
普段の診察では咬耗の方が出会うことが多いため、この記事では咬耗について解説いたします。
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監修者プロフィール:小原 健吾
所属学会:日本小動物歯科研究会、比較歯科学研究会 / 趣味:サーフィン、SUP
歯の咬耗とは

この写真では左の上顎と下顎の犬歯の先端が削れてしまって平坦になっています。
原因は小さい頃から毎日遊んでいたテニスボールです。
意外にも、あのケバケバで歯が削れてしまうのです。
写真ではわかりにくいですが、切歯(前歯)の一部も同じように削れていました。
このように、咬耗は犬の生活環境によって影響を受け、特に食事内容や噛むものに関連していることが多いです。
● 咬耗の原因
・おもちゃや遊び
おもちゃの材質や硬さ、遊び方によっては歯が削れてしまうことがあります。
下の例をご参照ください。
特にハサミで切れないくらい硬いものは歯が折れてしまうことがあるので、選ばないようにしましょう。
(例)野球ボールなどの革製品やテニスボールなどを噛むような遊び
フリスビーのキャッチ
市販されている鹿の角や蹄などの硬いものをかじって遊ぶ
・不正咬合
かみ合わせが悪く、上の歯と下の歯が当たってしまうことでも削れてしまいます。
・皮膚炎などの痒みを伴う疾患
体を搔くときに切歯(前歯)を使うため、長期間にわたる強い痒みがあるときは切歯が削れることがあります。
・生活環境
ケージから出たくて柵を噛み続けていると、特に犬歯の後ろ側が削れることがあります。
削れた歯を放置すると。。。

歯は外側からエナメル質、象牙質、歯髄に分かれます。
エナメル質は身体の中で一番硬い部分で、その下にある象牙質や歯髄を守っています。
歯髄は歯の中の神経や血管などがある部分です。
歯が削れたり折れたりすると、エナメル質の下にある象牙質が、もしくは象牙質と一緒に歯髄が露出します。
● 放置した場合に起こるトラブル
一番怖いトラブルは、根尖病巣(こんせんびょうそう)と呼ばれる、歯の根っこの先端周囲の顎の骨に起こる細菌感染症です。
根尖病巣の原因は歯髄の細菌感染で、これは歯髄が露出した時に起こることが多いです。
根尖病巣は細菌感染症なので、顎の骨に炎症が生じて膿が溜まります。
はじめは症状が分かりにくいですが、進行してくると頬など顔の周りが腫れる、膿や血が出てくる、激しい鼻炎症状が出る、激しい痛み、下顎の骨折などのトラブルが発生します。
また象牙質が露出すると知覚過敏が生じる可能性や、歯髄への細菌感染が起こる可能性もあります。
時間をかけてゆっくり削れている場合は、自己修復力により歯髄が露出していないことがありますが、その判断を下すには以下のような検査が必要です。
診断のためには

どんな検査で評価するのでしょうか?
● 検査方法
・視診
どの歯が削れているのか、削れて平坦になった部分の色調などを見て確認します。
・口腔内検査
「エキスプローラー」と呼ばれる、先端がとがった棒状の器具で削れた部分を触診します。
削れて平坦になった個所に段差はないか、歯髄が露出していないかを確認します。
詳細な口腔内検査を行うには全身麻酔が必要です。
・歯科レントゲン検査
歯髄が露出を評価したり、歯の内部構造や顎の骨といった目で見えないところを確認するための検査です。
口腔内検査と同様、全身麻酔が必要になります。
治療法は?
治療は削れてしまった歯の歯髄が露出しているかどうかで変わります。
● 治療法は?
歯に詰め物をすることもありますが、歯髄が露出していて顎の骨にも異常が認められていれば抜歯が必要になることが多いです。
歯髄が露出していなければ、無治療で経過を追っていくこともあります。
削れてしまった原因を追究し、遊びや生活環境を改善していきます。