JOURNAL診療記録

猫の特発性膀胱炎

猫は泌尿器疾患がとても多い動物で、膀胱から尿道までの病気を猫下部尿路疾患(FLUTD)と総称されることもあります。

特に秋から冬にかけて、気温が低くなるとFLUTDが増えてきます。

FLUTDには膀胱炎や尿道閉塞、膀胱結石、尿路感染症などが含まれますが、今回はその中でも最も代表的な病気である、特発性膀胱炎についてご説明いたします。

過去の記事で尿道閉塞についてご説明しておりますので、そちらもご参照ください。

愛猫のおしっこが出ない⁉ 緊急性の高い尿道閉塞とは

小原 健吾

監修者プロフィール:小原 健吾

所属学会:日本小動物歯科研究会、比較歯科学研究会 / 趣味:サーフィン、SUP

猫の特発性膀胱炎とは

猫の膀胱炎として最も多いものが特発性膀胱炎です。
「特発性」とは「原因やメカニズムが不明で特定できない」という意味です。
特発性膀胱炎の病態は複雑で、発症の原因や治療法を考えると膀胱のだけの問題にとどまりません。
発症の原因として、ストレスや生活環境、猫の性格や体質など個々の問題があげられ、色々な要素が重なって発症します。
水を飲む量や活動量が減る秋から冬にかけて発症しやすくなります。

よく見られる症状は、
 頻尿、トイレで踏ん張る時間が長い、トイレ以外のところでおしっこをする、血尿
などです。

● 発症の原因となりえるもの

・ストレスや生活環境
多頭飼育
くつろげるところがない
トイレが気に入らない
アロマや芳香剤など香りが強いルームフレグランスを使用している
引越し、模様替えをした
来客があった
近所で工事をしている

・猫個人の問題
怖がり、神経質な性格
肥満
運動不足
ご飯が合わない
水を飲む量が少ない

上記の他にもリスクファクターとなり得るものは数多く存在します。

これは私見も混じっていますが、コロナ禍も猫に大きく影響しました。
コロナ禍に突入した際、私は都内の動物病院で勤務していましたが、例年よりも膀胱炎や尿路閉塞の猫が多かったです。
在宅勤務などで私たち人間の生活リズムが変わることが猫たちのストレスになり、膀胱炎が増えたのかもしれないと同僚と話をしていました。

診断法は?

年齢、性別、品種に関わらずどの猫も特発性膀胱炎を発症する可能性はありますが、若齢~中齢での発症が多いです。
現在、特発性膀胱炎をピンポイントに診断できる検査は存在せず、おしっこの異常を起こす病気を1つ1つ否定し、消去法で診断するしかありません。
まずは診察室でお話を伺い、身体検査を行ったのちに具体的な検査に進みます。

● よく行われる検査

・尿検査
細菌の感染や、尿中に含まれるミネラル成分の結晶を探します。
猫のおしっこに関する症状の原因として尿路感染症は20%以下と報告されており、特発性膀胱炎の猫のほとんどは細菌感染は認められません。
そのため、細菌感染が認められたら別の疾患を考えなければなりません。
また結晶が認められれば、尿石症の診断の手掛かりになります。

・超音波検査
おしっこの溜まり具合、膀胱内の結石、腫瘍やポリープ、血餅(血球成分などが固まったもの)を確認するための検査です。

・レントゲン検査
膀胱結石を確認するための検査です。

治療と予防法は?

ほとんどの特発性膀胱炎は治療をしなくても数日~数週間で症状が消失します。
しかしその間、おしっこを溜めたり出したりする際の痛みなど辛い症状に悩まされるため、早急に治療を始める必要があります。

● 治療法

・痛みどめ
膀胱炎に伴う痛みを軽減させます。
痛みのケアを行わずに放置していると、尿道閉塞のリスクが増えることが知られています。

・ストレスケア
多頭飼育や家族の影響を受けている場合は、1人で過ごせる時間を増やせるよう部屋を分けたり、静かに隠れられる場所を作ると良いでしょう。
また、キャットタワーなどで高いところで周りを見下ろせるところを作ると猫は安心することができます。
爪とぎやおもちゃでストレス発散してもらうことも大切です。
猫用のフェロモン製剤(フェリウェイ)も市販されているので、こちらもオススメです。

・トイレ環境の改善
ストレスなくおしっこをしてもらうことはとても大切です。
箇条書きでご紹介します。
 ・トイレはサイズが大きなものを選ぶ(体長の1.5倍が目安)
 ・カマクラ型のカバーは外してみる
 ・トイレの砂はたくさん敷き、かいても底が見えないようにする
 ・砂の種類は数種類試してみる(鉱物系を好むことが多く採尿もしやすいですのでオススメ)
 ・トイレの数は猫の頭数プラス1個
 ・静かなところに設置する
 ・常に清潔に保つ

・水をたくさん飲んでもらう
おしっこの量を増やして膀胱内をきれいに保つため、猫に水を飲んでもらうための工夫も必要です。
たくさんあるので箇条書きでご紹介します。
 ・容器
   毎日洗い清潔に保ち、水は継ぎ足さずに新しいものを用意する
   口の広いものを選ぶ
   素材はプラスチックを避け陶器かステンレスにする
 ・設置場所
   猫がよく通るところや寝床の近くなど色々なところに置く
   トイレの近くことは避ける
 ・循環型の給水機を導入する(できるだけ洗いやすく、モーター音の静かなもの)
 ・蛇口の少しだけ開けて水を垂らし、お皿に溜まるようにしておく
 ・お風呂の床を常に濡らしておく
 ・ウエットフードを用いてご飯からの水分摂取量を増やす

・食事療法
特発性膀胱炎の治療や再発防止に有効であると科学的に証明されたご飯(療法食)が各社から発売されています。
尿結石予防のためミネラル分が調整されていたり、飲水量を増やす効果があります。
ストレスケア成分も含まれている製品もあるため、ストレスを感じやすい猫や再発を繰り返す場合は推奨されます。
また、静かで落ち着けれるところでご飯を食べれるように工夫もしてあげてください。

治療の大きな柱はストレスケアや生活環境の改善で、再発防止のためにも症状が消失した後もそのまま継続することを推奨します。
環境改善のコツは、「猫は清潔で静かな環境を好み、変化を嫌う」と意識してみることです。
生活環境の改善やトイレの変更など、どんなことでもご相談ください。

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