日々の診察の中で、「この子はよく水を飲むんです。」というご相談はしばしばあります。
よくお水を飲む状態を「多飲」といい、様々な病気の症状のひとつでもあります。
「多飲」と同時に、尿の量も異常に多くなっている「多尿」も認められることが多く、これらを合わせて「多飲多尿」と呼びます。
今回は、「多飲多尿」をテーマにお話を進めていこうと思います。
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監修者プロフィール:小原 健吾
所属学会:日本小動物歯科研究会、比較歯科学研究会、日本獣医エキゾチック動物学会 / 趣味:サーフィン、SUP
多飲多尿について

冒頭でも述べた通り、「多飲多尿」とは、飲水量と尿の量が異常に増える状態を指します。
病的な場合、初めに尿の量が増え、色も透明なものが出るようになります。
身体の水分が尿として失われるためにのどが渇き、飲水量も増えていくのです。
この症状は様々な原因によって引き起こされ、主要な原因を挙げると以下のようになります。
● 主な原因一覧
・腎不全
犬でも猫でも一般的な原因の1つです。
腎臓には、尿を作り体内の老廃物を排泄する機能と、作った尿から水を体に再び吸収して体内の水分量を調整する機能があります。
腎臓が正常に機能しないと、尿から水分を十分に吸収することができず、体内の水分が尿として失われてしまいます。
そのため過剰に水を飲み、頻繁に排尿をするようになります。
・糖尿病
犬でも猫でも一般的な原因の1つです。
血糖値が高くなると、尿と一緒に糖が排泄されます。
糖分は水分を引き寄せる性質があり、尿の中に糖が多いと、それに伴って水分も一緒に排出されます。
・クッシング症候群
猫ではまれですが、犬ではよくある原因の1つです。
副腎という臓器が異常にステロイドホルモンを分泌することによって引き起こされます。
ステロイドホルモンには尿を増やす作用があるため、犬に多飲多尿を引き起こします。
・子宮蓄膿症
避妊手術をしていない中高齢の犬と猫にとても多く認められます。
子宮蓄膿症による炎症性物質や性ホルモンのバランスの乱れなどにより多飲多尿になることがあります。
・甲状腺機能亢進症
犬ではまれですが、猫ではよくある原因の1つです。
高齢で最近やせてきた猫は要注意です。
・アジソン病
副腎から産生されるホルモンが少なくなってしまう病気です。
猫では珍しい病気ですが犬では時々認められ、見落とされがちな病気の1つです。
・高カルシウム血症
カルシウムが腎臓に直接、そしてホルモンを介して間接的に作用して、尿の量を増やします。
高カルシウム血症の原因は、ホルモンの病気、悪性腫瘍、腎臓病などがあります。
・肝疾患
肝臓が正常に機能しなくなると、体の水分バランスが崩れることがあり、それが多飲多尿の原因になることがあります。
・飲んでいる薬の副反応
例えば利尿薬、ホルモン薬、抗てんかん薬などの薬剤が原因で多飲多尿が引き起こされることがあります。
もし最近新しい薬を与えている場合は、その副作用を考慮する必要があります。
・偽心因性多渇(ぎしんいんせいたかつ)
心理的な要因や精神的な問題が原因で異常に強い渇きを感じる状態のことを指します。
言い換えれば、実際には体内の水分が不足していないにもかかわらず、精神的なストレスや不安、過去の経験などが影響し、強い渇きを感じることがあります。
この状態は、通常の体内の水分バランスに問題がない場合でも、喉の渇きが強くなることが特徴です。
ご自宅での見極め方
上記の様に、怖い病気が隠れている可能性がある多飲多尿。
家で簡単に評価できる方法をお伝えします。
● 多飲多尿の見極め方
・正常な飲水量を知る
犬や猫の1日の水分摂取量は、体重や活動量、食事内容(ドライフードかウェットフードかなど)によって変わります。
一般的に、犬は体重1kgあたり約50〜60mlの水を1日に飲むとされています。
猫は犬よりも水分を摂取しにくい傾向がありますが、それでも体重1kgあたり約40〜50mlの水を1日に飲むことが一般的です。
ただし、食事から含まれる水分もこれに含まれており、ウェットフードを与えている場合は食事から摂る水分が多いため、飲み水の量が少なくなることもあります。
ペットボトルなどを用いてだいだいどのくらい飲んでいるかを把握したり、水量を測れるメモリのついた水飲み容器を使うと簡単に計測することができます。
・異常な飲水量とは
正常な飲水量の倍近くの水を飲んでいると、多飲状態の可能性が高いです。
つまり1㎏あたり、だいたい犬で100ml、猫で80ml程度を飲んでいるときです。
・尿の状態を把握する
ほとんどの多飲多尿は、多尿が先行します。
尿の量が増えると、
粗相をするようになる
夜でもトイレをする回数が増える
排尿姿勢が長くなる
尿の色やにおいが薄くなる
などの変化が出てきます。
特に猫の場合は、飲水量を把握するよりもトイレのおしっこの状態を把握することで、多飲多尿に気付きやすくなるでしょう。
診断・治療のためには

多飲多尿と分かっただけでは何の病気なのかわかりません。
様々な検査を行った後、多飲多尿を起こしている原因を診断し、治療を行っていきます。
● 必要な検査
・尿検査(尿検査)
尿の濃度や成分を調べ、尿が薄いかどうか、糖分やタンパク質が含まれているかなどを確認します。
これによって腎臓の機能や糖尿病の兆候を調べます。
・血液検査
腎臓病、糖尿病、炎症の有無など様々な病気の可能性を探ります。
診断をつけたり、考えられる病気を絞るうえで必須の検査となります。
・レントゲン検査や超音波検査
腎臓をはじめ身体の様々な臓器の形態、腫瘍の有無などを調べるために行います。
・ホルモン検査
例えば、副腎疾患(クッシング症候群など)を調べるためのコルチゾール検査や、甲状腺ホルモンの異常をチェックするための検査を行います。
多飲多尿と言ってもたくさんの病気の症状の1つです。
その中には、よくある病気も珍しい病気もあり、治療法も様々です。
この記事を読んで気になることがあれば、いつでもご相談ください。
当院から遠方であれば、お近くの動物病でまずはご相談を。