SFTSはヒト、イヌ、ネコに感染し、公衆衛生上でも大きな問題になる病気です。
その恐ろしさは高い致死率と感染力にあります。
国内の疫学調査によると、発症後の死亡率はヒトで約30%と高く、特に高齢者は死亡リスクが高いです。
またイヌでは40%、ネコでは60~70%と報告されています。
この記事では、イヌ、ネコ、ヒトの注目すべき発生状況などを、国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト、行政機関ホームページ、各種論文から抜粋してご紹介いたします。
⇩:過去には下の記事も掲載していますので、ご参照ください。
診療記録|葉山まほろば動物病院|三浦郡葉山町一色|一般診療・専門診療

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監修者プロフィール:小原 健吾
所属学会:日本小動物歯科研究会、日本獣医歯科学会、日本獣医エキゾチック動物学会 / 趣味:サーフィン、SUP
イヌの感染事例
イヌの発症時はネコと同様、高熱、黄疸、白血球・血小板減少、嘔吐が多く認められ、致死率は40%と高いことが分かっています。
● 感染事例
・関東地方で初めてイヌの感染を確認
2025年6月、茨城県で3歳オスの中型犬。
6月上旬に山へ入った後、体を痒がる症状が見られ、動物病院を受診しました。
高熱(40℃超)、食欲不振、血小板・白血球減少などの症状を呈し、SFTSウイルス陽性が確認されました。
動物病院での治療により,約5日後に症状は回復しました。
飼い主さんへの感染は報告されていません。
これは関東地方で初めての犬の感染事例です。
・イヌからヒトへの感染事例
2017年、徳島県のペットのSFTS感染犬を看病していた飼い主が、マダニに噛まれた痕がないにも関わらずSFTSウイルス抗体陽性となり、犬との濃厚接触(口移しで餌を与えるなど)が感染源とみなされたと報告されています。
飼い主は、口移しでイヌに餌を与えるなどの濃厚接触をしていたことが感染源と推定されています。
その後は飼い主もイヌも回復しています。
この事例はイヌ→ヒトへの動物由来感染が起きた初のケースとされています。
ネコと同様にイヌの場合も、体液(唾液・尿・糞便・血液など)に触れることで感染の可能性があるため、十分な注意が必要です。
ネコの感染事例
ネコの発症時は高熱、黄疸、白血球・血小板減少、嘔吐が多く認められ、致死率は60~70%と非常に高いことが分かっています。
● 感染事例
・関東地方で初めてネコの感染を確認
2025年5月、茨木県内、1歳メス、室内飼育・マダニ駆虫薬は投与済みでしたが、屋外脱走後に耳に多数のダニが付着していました。
その後40℃を超える高熱、食欲不振、嘔吐、黄疸が認められ、診察を行った獣医師がSFTSを疑い、5月12日に県へ届出。
血液検査でSFTSV陽性と診断され、発症から3日後に死亡ました。
飼い主さんへの感染は報告されていません。
このように飼い猫による感染が確認されたのは、関東地域では初のケースです 。
・ネコからヒトへの感染事例
ネコからヒトへのSFTS感染事例は報告されています。
特に、発症したネコの体液(唾液、尿、糞便など)との直接的な接触が感染のリスクを高めるとされています。
実際に、ネコに咬まれたことが原因でSFTSウイルスに感染した事例や、感染したネコを看病していた方が感染した事例が報告されています。
また2025年5月の三重県での獣医師の死亡例の他にも、宮崎県の動物病院でSFTSに感染した猫の治療に従事した獣医師と動物看護師が感染し発症した事例があります。
この際、マダニに咬まれた形跡はなく、感染経路はネコの血液などの体液に接触したことによるものと考えられています。
宮崎県の獣医師と看護師は、感染予防対策としてグローブとマスクを着用していましたが、それでも感染が確認されました。
この事例は、感染動物の血液中に大量のウイルスが存在する可能性や、微細な血液飛沫による感染、防護具の着脱時の接触感染などが要因として指摘されています。
初期の症例は 西日本(九州・中国・四国地方) で多数を占めていましたが、最近では 北陸(石川県)、東海(静岡県)、関東(茨木)でも感染例が報告されています。
ネコは特に重症化しやすく、飼い猫や地域猫としてとても身近な存在であり、ネコを飼育しているご家庭や獣医療従事者は感染の可能性が高いため十分な注意が必要です。
ヒトの感染状況
日本では2013年以降、毎年約100~120件のヒト感染例が報告されています。
2025年、7月8日時点で報告されているSFTS患者数は 91人で、これは同時期として過去最多を記録した前年を上回っています。
● 感染事例
・関東地方で初めてヒトの感染を確認
2025年7月2日、神奈川県内の60代の女性がSFTSに感染していることがわかりました。
女性には県外への外出やほかの感染者との接触などはなく、県内で感染していたことが判明したということです。
この女性は退院し、快方に向かっているようです。
・獣医師の死亡事例
2025年5月、三重県内の動物病院でSFTS感染猫を診察後に獣医師が発症し、数日後に死亡しました。
診察時にはマダニ咬傷の痕はなく、体液接触が感染経路と見られています。
これを受けて日本獣医師会が「動物由来SFTS感染への警戒と防護策の徹底」を全国の会員獣医師へ呼びかけました 。
治療法
現在、動物のSFTSに対する確立された治療法は存在していません。
そのため、治療は以下のような支持療法(症状を和らげる治療)が中心です。
また人の医療では抗SFTSウイルス薬が承認されており、この薬剤についてもご紹介します。
● 動物のSFTSの治療
・支持療法
ウイルスそのものを排除するわけではないため、回復には本人の免疫力や自然治癒力をサポートするような治療です。
発熱に対して解熱剤の投与、脱水に対して点滴の実施、血小板減少に対して輸血の実施などです。
・抗ウイルス薬
抗ウイルス薬は、ウイルスの体内での増殖(複製)を抑えることを目的としています。
2024年6月に日本でSFTSに対する治療薬として、アビガン(有効成分:ファビピラビル)が正式に承認されました。
これは世界初のSFTSに対する抗ウイルス薬です。
国内で行われた臨床検査では、アビガンを投与した場合では従来の治療よりも致死率が低い結果が得られました。
しかしながら現時点では、ヒトの医療において、アビガンを使用できる医療機関は限られています。
獣医療においては入手が困難で、将来的に「動物用ファビピラビル製剤」の臨床的開発や承認が進めば話は別ですが、現時点では獣医師が安心して使用できる選択肢ではありません。
SFTSの予防法
SFTSの予防は、マダニ対策につきます。
動物病院ではマダニ・ノミの駆虫薬を処方していますが、毎月投与していても感染したネコが報告されていることから、これだけでは不十分と言われています。
このような駆虫薬はマダニ・ノミが長期間寄生することを予防するためのもので、確実に対策するためには別の方法も組み合わせることが必要です。
● マダニ対策
・ヒトの対策
①肌の露出を避ける
野山や茂みなど、マダニのいそうなところに行くときは長袖・長ズボン、手袋や帽子を着用しましょう。
首にはタオルを巻き、ズボンの裾を靴下や長靴の中に入れると、服の隙間からマダニの侵入を防げます。
②虫除けスプレーなどのマダニ忌避剤を活用する
ドラッグストアなどで購入できます。
ディートとイカリジンの2種類の成分がマダニの忌避効果があるとして認可されています。
使用に当たっては用法をしっかりと確認してください。
・ネコ・イヌのマダニ対策
①室内飼育
ネコもイヌも室内飼育は基本中の基本です。
特にネコは完全室内飼育を徹底しましょう。
②動物病院で処方される駆除薬の投与
2-3月から12月までの期間投薬することを推奨します。
月に1回投薬するだけでOKです。
犬はおやつタイプ、猫は垂らすタイプがよく使われます。
フィラリアやお腹の寄生虫も一緒に予防できるお薬もあります。
③茂みに近づかない、外から帰ってきたときのブラッシング
イヌのお散歩で、茂みや野山を避けることは基本的ですがとても効果的です。
都心部の公園でも注意が必要なこともあります。
また、お散歩後は被毛にマダニが付いていないか確認したり、ブラッシングをするようにしましょう。
吸血する前のマダニは2~3㎜と非常に小さいので、見落とさないようにご注意を。
④虫よけスプレー
確実ではありませんが、マダニなどの寄生虫の忌避効果が期待できます。
刺激の少ない天然成分由来のものを選択するようにしましょう。
初めて使うときは、皮膚炎などのトラブルが起きる可能性もあるので、少量から試用してください。
健康なネコやイヌ、屋内のみで飼育されているネコやイヌからヒトがSFTSウイルスに感染した事例はこれまでに報告されていません。
これらの対策をしっかりと行うことで、SFTSは予防できます。
出展
この記事は以下のサイトや論文を参考にしています。
● 出展
国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/sa/sfts/index.html
https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/8992-473r09.html?utm_source
富士フィルム 富山化学株式会社
https://www.fujifilm.com/fftc/ja/news/332
神奈川県ホームページ
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/prs/r9064576.html
水戸市ホームページ
https://www.city.mito.lg.jp/site/doubutsuaigo/103410.html
Kato H, et al., PLoS One 11(10): e0165207, 2016
鶴 政俊ら, ネコ咬傷により重症熱性血小板減少症候群(SFTS)を発症したと考えられる1例, 第92回日本感染症学会, 岡山, 2018年5月
西條政幸ら, 飼い犬から重症熱性血小板減少症候群(SFTSウイルスに感染し, SFTSを発症した患者例, 第92回日本感染症学会, 岡山, 2018年5月

