猫の混合ワクチンは、複数の病気に対する予防接種を一度に行うためのワクチンです。
ワクチン接種で病気を効率よく予防し、愛猫の健康を守ることができます。
以下に、当院で取り扱っている猫の混合ワクチンとその対象となる病気について説明します。
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監修者プロフィール:小原 健吾
所属学会:日本小動物歯科研究会、日本獣医歯科学会、日本獣医エキゾチック動物学会 / 趣味:サーフィン、SUP
3種混合ワクチン

このワクチンは、以下の3つのウイルス感染症に対する予防を行います。
3種混合ワクチンはコアワクチンとも呼ばれ、すべての猫にワクチン接種をすべきとされています。
● 3種混合ワクチン
①猫ウイルス性鼻気管炎
猫ヘルペスウイルスによる感染症で、猫風邪とも呼ばれます。
はじめはくしゃみ、鼻水、発熱といった風邪のような症状が続きます。
目ヤニや目の充血なども認められ、角膜炎や結膜炎も併発することもあります。
感染力が強く、くしゃみなどによる飛沫感染で伝播します。
他のウイルスと混合感染も多いため、特に子猫の場合重篤化し、死亡する場合もあります。
また、回復してもウイルスは体内に残り続け、ストレスや免疫力の低下によって再発することもあります。
外猫さんたちで、鼻水や目やにが出ている猫はこの病気に罹っている可能性が高いです。
②猫カリシウイルス感染症
一般的にくしゃみ、鼻水、発熱など風邪に似た症状が続き、悪化すると肺炎を起こすこともあります。
歯茎・口腔や舌の粘膜が赤くただれることもあり、猫の歯肉口内炎という病気の関連性を指摘されています。
他のウイルスとの混合感染により重篤化し、死亡する場合もあります。
回復後もウイルスは体内に残りつづけ、他の猫に感染させることもあります。
③猫汎白血球減少症
猫パルボウイルスによる感染症で、ワクチンで予防できる病気の中でもっとも危険で死亡率が高い感染症です。
子猫や若い猫に発症が多く、嘔吐、強い腹痛、血の混じった下痢、高熱、重度脱水が認められます。
感染力も高く、この病気に罹った猫と直接触れ合って感染するほかに、衣服や靴底などにウイルスがついて感染が広がることも多いです。
妊娠猫が罹ると胎児へも影響が出ます。
これらの病気は多頭飼育や外へ行く猫では特に感染リスクが高いです。
以前勤めていた宮古島や岡山県では①猫ウイルス性鼻気管炎、②猫カリシウイルス感染症はとても多く認められていました。
また都内でも、多頭飼育されているご家庭の猫たちが次々に③猫汎白血球減少症に感染して、とても恐ろしい状態になったことも経験しました。
これらの病気の予防のためにも、定期的なワクチン接種と完全室内飼育をお勧めいたします。
猫白血病ウイルス(FeLV)感染症
猫に感染するウイルス性の病気で、白血球や免疫系に影響を与えるウイルスです。
猫白血病ウイルス(FeLV)は、猫の免疫系を弱め、さまざまな健康問題を引き起こす原因となります。
猫白血病ウイルス(FeLV)は主に感染した猫との体液(唾液、血液など)の交わるような接触を通じて広がります。
例えば、ケンカや交尾、グルーミングによる接触が主な感染経路です。
また、感染した母猫から子猫へも垂直感染することがあります。
感染初期には発熱、食欲低下などの風邪のような症状が見られることもあります。
持続感染(ウイルスが体内に持続的に存在すること)が成立すると、以下のような病気に罹りやすくなります。
● 発症後に起こる問題
・免疫力低下
猫白血病ウイルス(FeLV)は免疫系の細胞に感染し、猫の免疫力を弱めるため、細菌やウイルスなどの感染症に対する抵抗力が低下します。
・貧血
骨髄が正常に赤血球を作る機能を妨げられる場合があり、血液中の赤血球が減少します。
これが貧血を引き起こし、猫が元気をなくす原因となります。
また、免疫介在性溶結性貧血という致命的な病気の発症リスクが高まることが知られています。
これは自身を守るはずの免疫機能が暴走して、誤って自分の赤血球を攻撃してしまう病気です。
・悪性腫瘍(がん)の発症
猫白血病ウイルス(FeLV)感染により、悪性腫瘍の発症リスクが増加します。
特に若齢時に感染が成立した猫では、若くても縦隔リンパ腫というリンパ腫に罹りやすいです。
FeLVにはワクチンがあり、外で多くの猫と接する可能性が高い猫や、FeLV陽性の同居猫がいる場合には予防接種が推奨されます。
注意点
接種後はできるだけ安静にし、1日は様子をよく見てあげてください。
混合ワクチンは愛猫の健康を守るために非常に重要ですが、まれに副反応も認められます。
接種後すぐに表れる副反応もありますが、3~6時間後でも現れるものもあります。
そのため、混合ワクチンの接種は午前中をお勧めいたします。
混合ワクチン接種後は院内で15分ほど安静に過ごしてください。
● ワクチンによる有害事象
軽い発熱、食欲不振などが見られることがありますが、通常は一過性で1~3日で回復します。
またアレルギー反応として、ぐったりする、呼吸器症状(呼吸困難など)、消化器症状(嘔吐や下痢など)、皮膚症状(痒み、顔面の腫脹など)などが認められ、これらは積極的に治療する必要があります。
特にぐったりしたり呼吸器症状が発生しているときは致死的になる可能性も高いため、迅速な治療が必要となります。
アメリカの研究だと、1000回のワクチン接種につき5件の有害事象の発生(重篤度は問わず)があったと報告されています。
接種部位が腫れることもあり、特にこれにはご注意ください。
猫には注射部位肉腫という悪性腫瘍が存在します。
過去にはワクチン関連肉腫とよばれていましたが、ワクチン以外の注射や手術用の非吸収糸などが原因でも発生することがわかり、このような名称に変更されました。
ワクチン接種後の発生リスクは1~16/10,000例と報告されており、発生までの期間は幅があり、4週~10年と言われています。
ワクチン接種後一過性に腫れが認められることはありますが、以下の場合には積極的に診断をつけていく必要があります。
・注射部位に腫瘤が3か月以上存在するとき
・腫瘤の大きさが2㎝以上の時
・注射後1か月以上経過してから腫瘤が増大するとき
このような副反応が認められた時はすぐに当院までご連絡ください。
過去にワクチン接種後、体調変化を起こしたりアレルギー反応を起こしたことがある場合は獣医師に申し出てください。
副反応が起こりにくくなる処置があります。